ツングース系の言語。なんておそらく聞いたことがない人がほとんどなのではないだろうか。言語好きの私でさえもツングース系言語の記事は書こうか、書かないか迷ったくらいだ。5年前の私ならそんな言語の概念すらなく、3年前の私ならなんとなく知っていたけど、書こうとはしなかっただろう。
それでも中央アジアのキルギスや、モンゴルに行くに連れ、キルギス語、モンゴル語、さらに3回くらいアパートを借りているトルコの言語をやっているうちに、このツングース系という謎の言語系統を掘り起こしてみたくなった。
「なぜ日本人にソックリ?「ツングース系民族」の顔が西洋でモテる理由」
確かにツングース系の人たちは、モンゴル人に近い顔立ちをしている。とはいっても、この辺はまだ謎が多く、言語の関連性から見て、現在のモンゴルという土地に、モンゴル語系、チュルク語系、ツングース語系と大きく分かれて3つある。
モンゴル系といえば、モンゴル語。チュルク語系といえばその代表的な言語がトルコ語で、ツングース系の言語というのはこれから紹介していく言語である。
おそらくこれを聞いてもしっくりこないと思うのだけど、例えば、ヨーロッパは、イギリス(英語)から、北はロシア(ロシア語)、南はインド(ヒンディー語)まで全部インド・ヨーロッパ語族となっており、言語の関連性が認められている。
けれども、現在のモンゴルという土地から派生していったモンゴル語、トルコ語、ツングース語はこれらのヨーロッパの言語のように、一つの語族としてはまだ認められていない。
アルタイ諸語。といって、トルコ語〜日本語まで、膠着語の特徴を持った言語を一まとめにする話も以前あったが最近はそれが否定されているのは有名な話。ちなみに、アルタイという場所については、近くのノヴォシビルスクにいたときに書いた。
「モンゴルとカザフに挟まれた「アルタイ共和国」と「アルタイ地方」の違いと、顔立ち、家賃相場、見所スポット」
語族に関しての関連記事は以下。
「欧州なのに「インド・ヨーロッパ語族」には属さない異端の「ウラル語族」と日本語の関係」
ツングース系の言語とは、韓国の北側、またロシアのウラジオストクやハバロフスクがある極東の沿海州。この辺はかつて渤海(698年 - 926年)という国があり、ツングース語系の言語が公用語であった。
また歴史で、女真族。というのも聞いたことがあるのではないだろうか。この時に話されていた女真語も、ウラジオストクからハバロフスクにかけてのエリアで、満州語とかなり近い関係にあるという。
よく歴史に登場する、鮮卑というところで話されていた鮮卑語(せんぴご)は、その言語系統はモンゴル系ともテュルク系ともいわれるが、定説には至っていない。
さて、この記事ではツングース系の言語の人口をランキング化させて、軽くどんな言語なのか探っていきたいと思う。
wikipediaの英語圏と日本語の情報を合わせて、動画も貼り付けた。いずれにしても、そんなに細かくは書いていないが、何かしらのヒント、気づきがあれば幸いだ。
ちなみに母語話者数は、2010年のものが多いのであくまでも参考ということで。
ちなみに、以下、20言語ほどのレアな言語をまとめたニューエクスプレス。本屋でよく見かけるので、現在購入しようか検討中。この記事に登場する3つの言語がこの本につめられている。→ニヴフ語、サハ語、シベ語
11位 オロチ語
下層グループ オロチ・ウデヘ語群
民族数 600人(2010年)
母語話者数 8人(2010年)
文字システム キリル文字
オロチ語はツングース諸語に属しており、トゥムニナ方言(тумнинский)、ハジ方言(хадинский)、フンガリ方言(хунгарийский)に分かれる。ロシア極東にあるハバロフスク地方に話者数が多い。
10位 満州語
下層グループ 満洲語群
民族数 1000万人(2007年)
母語話者数 20人
文字システム 満洲文字
※動画は、少しだけだが、満洲族の少年が満州語で自己紹介しているものを含む。→すぐ消されちゃうかも。→0:42〜0:50 あたり。
さて、満州語。というのはツングース系の言語の中でおそらく非常にポイントとなる言語。中国には満州民族が1000万人(2007年)もいるのに、母語話者がたったの20人。
満州民族といえば、現在の中国東北部を中心とした民族で、彼らのほとんどは満州語を話せない。私も一度、瀋陽市の瀋陽師範大学を見学しに行ったとき満州人の女性が案内してくれたけど、彼女は自分の民族性に誇りを持ちながらも、満州語は全然話せないと言っていた。
これだけ多くの民族がいるのにその民族語を話せないという民族も珍しいのではないだろうか?
よく考えてみると最近までの中国は、清朝時代(1616年 - 1912年)=満州人の王朝だった。
つまり、漢民族のほうが人口が多いのに、王朝は満洲族という不思議な状態が何百年も続いていたのだ。
つまり多くの漢民族からすると、中国国内にいる1000万人の満州人がウイグルやチベット、内モンゴルの人たちのように、一つの言語のもとで立ち上がって一致団結してしまうと、やっかいなので、満州語の完全復活は難しいのではないだろうか。
ちなみに、北京語方言には多くの満州語が入っていると最近動画で話題にもなっていることからもわかるように、北京が約300年もの間、満州人の強い影響を受けていたことがわかる。
つまりポイントは、ツングース系の最大民族は満州人ではあるが母語話者が非常に少ない。そして、漢民族からしたら満州人には大人しくしてもらいたい。という感じなのかもしれない。とはいっても、満州語の教育はきちんと行われており、満州人の間では、言語を守り抜こうという意志が中国語のいくつかの動画から感じられた。
ちなみに中国は一つの国のように見えて、中身がわかるとかなり見方がかわるので以下の記事もおすすめ。
中国の少数民族の人口順位 TOP55(イケメン、美女写真付き)
満州語のあいさつや、数字など聞ける動画。↓
The Sound of the Manchu language (Numbers, Sentences & Phrases)
ざっくりだけど、あいさつレベルのフレーズなどは、モンゴル語とそっくりだった。(一応言語系統は違うはずなのだけど)
9位 ウィルタ語
下層グループ ナナイ語群
民族数 300人(2010年)
母語話者数 26–47人(2010年)
文字システム キリル文字
サハリンなどに住むウィルタ人が話すウィルタ語は、民族数は300人とかなり少なく、母語話者も少ない。
8位 ネギダール語
下層グループ エヴェンキ語群
民族数 510人(2010年)
母語話者数 75人(2010年)
文字システム キリル文字
ロシア極東に住むネギダール人が話すネギタール語。ネギダール語を話す女性の動画を発見。フランス語の字幕が付けられているので、相当な言語マニアが載せたに違いない。
7位 ウデヘ語
下層グループ オロチ・ウデヘ語群
民族数 1500人(2010年)
母語話者数 100人(2010年)
文字システム キリル文字
ロシア極東でウデヘ族によって話されているウデヘ語。
6位 ウリチ語
下層グループ ナナイ語群
民族数 2800人(2010年)
母語話者数 150人(2010年)
文字システム キリル文字
ウリチ語の多くは、ハバロフスク地方に住むウリチ人によって話されている。以下に出てくるナナイ語と近い関係にある。
5位 ナナイ語
下層グループ ナナイ語群
民族数 不明
母語話者数 1400人(2010年)
文字システム キリル文字
ロシア極東、中国の黒竜江省に住むナナイ人が話すナナイ語。以下の動画は、RT(ロシア・トディ)の英語版。ロシア極東の原住民について記録したもの。ここにナナイ族が出てくる。もともとハバロフスクやウラジオストクなどが、ツングース系民族の場所だったことがわかる動画。
Clash of Cultures: Ancient people desperate to keep identity
4位 オロチョン語
下層グループ エヴェンキ語群
民族数 不明
母語話者数 1200人(2009年)
オロチョン語は、中国の内モンゴル自治区や、黒竜江省で話されている言語。
3位 エヴェン語
下層グループ 北部ツングース諸語
民族数 21,800人(2010年)
母語話者数 5700人(2010年)
文字システム キリル文字
エヴェン語は、主にロシア極東で話されている言葉。
発音の特徴として、5つの母音に、シュワー。そして、5つの母音にはそれぞれ超母音、短母音がある。そして、ウとオはそれぞれ若干違う発音があるので、細かく分ければ18の母音があるとも取れる。とはいても、ほぼほぼ、あ・い・う・え・お。の5つの母音を伸ばすか、伸ばさないか、くらいの違いしかなく、動画を聴いていても、どこかの近所のおばあちゃんが話しているようにも聞こえる。。
ちなみに、この動画のコメントにはアメリカに住むインディアンから興味深いものがあった。以下。
僕は、アパッチ族だけど、なんかこのおばあちゃんの顔は、ネイティブアメリカンみたい!
というものだった・・。確かに、日本人をはじめ、東アジア人とアメリカのインディアンは少し似てるからね。
2位 エヴェンキ語
下層グループ エヴェンキ語群
母語話者数 26,580人 (2007年–2010年)
文字システム キリル文字、ラテン文字、モンゴル文字(試験的)
1930年代以前は現在のエヴェン語と併せてツングース語と呼ばれていた。中国(黒竜江省)、ロシア、内モンゴルなどのエヴェンキ人に話されている言葉。試験的にモンゴル文字を使用しているという情報もあった。
エヴェンキといえば、以前書いた記事が非常によく読まれているのだけど、韓国人との関係があるのではないか?というもの。私もいつか、エヴェンキ語と韓国語の語彙の関連性を調べてみたいな。
「「エヴェンキ人」と「韓国人」の顔が似すぎている件と、韓国における顔の種類(パターン) TOP5」
エヴェンキの映像(ロシア語版)は以下。エヴェンキ族の写真がかなり出てくる。
Почему ЭВЕНКИ (ТУНГУСЫ) считаются "АРИСТОКРАТАМИ СИБИРИ"???
1位 シベ語
下層グループ 満州語群
民族数 189,000人(2000年)
母語話者数 30,000人(2000年)
文字システム シベ文字
ツングース系の言語の半分を占めるシベ語。とはいっても満洲族が満州語がわからなくなっているだけで、民族数は断然満州がトップである。つまり満洲族が満州語を話せないがためにトップになったといってもいい。
この動画では中国に住むシベ族たちがシベ語を話している。聴いた感じだと、音が非常に心地よい。発音に関して言えば、中国語や韓国語などのように有気音が存在。また母音が8つもある。
人口比率
ツングース語系のほとんどの言語は話者人口が非常に少ない。簡単にまとめると、シベ語が一番話されていると思って良い。とはいっても民族数で言えは断然、満洲族が最大の民族。
シベ語(55%)
エヴェンキ語(28.97%)
エヴェン語(10.45%)
その他 (5.58%)
日本がかつて満州を作ったように、あの辺にツングース語系である満州語を話す土地ができると、東アジアのバランスも変わって面白いかも。
いずれにしても多くの人はツングース系の言語とは縁がないと思うので、ツングース系といえば、満州語、シベ語、エヴェンキ語などを話す人たちということを覚えておけば、何かの話のネタにでもなるかもしれない。
また、シベリアがただの広い土地だけでなく、いろんな民族が発見できるロマンある場所と思えるようになれるかもしれない(笑)。
ちなみに、記事の最初の方でも紹介したけど、以下、日本の近隣にある20言語ほどのレア言語をまとめたニューエクスプレス。本屋でよく見かけるので、現在購入しようか検討中。この記事に登場する3つの言語がこの本につめられている。→ニヴフ語、サハ語、シベ語
ニューエクスプレス・スペシャル 日本語の隣人たち I+II[合本]